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zoom RSS 若者たち―役者たち―〜ある『上州土産百両首』〜【そのA】

<<   作成日時 : 2015/03/05 22:49   >>

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《君の行く道は果てしなく遠い。
だのになぜ歯をくいしばり君は行くのかそんなにしてまで》
大音量の『若者たち』が流れる中で、
“兄ぃ”こと佐次郎(正太郎)は強請るスリの兄貴分伊三郎を刺しました。
本当の弟のように思う大事な牙次郎の為に。
3年後立派な堅気になって又会おうと約束したのに、したけれど、
会うことだけを楽しみに努力と縁で立派な板前にまでなれたのだけれど、
やっとここまで来れたけれど、「あいつの笑顔の為に」。
大事な牙次郎のこれからと「笑顔」を守りたくて思わず、いや、≪故意で≫。
そうしてやっと出会えた2人。牙次郎は兄ぃに心から言います。
「兄ぃはもう助からないの?」
これが、その日の紅劇団の『上州土産百両首』。
これまでと、これからに続く、今の、紅劇団の『上州土産百両首』。

紅劇団の『上州土産百両首』。
序幕では三人のスリの関係が描かれます。
スリから足抜けしたいという一番下の弟分、ちょっとヌケた三枚目風、牙次郎。
一番上の兄貴分、おっかないゴロツキ風、蝮の伊三郎(三次)は許さない。
そこで助け舟を出してくれたのが真ん中の兄ぃ、
いなせでカッコイイ…ちょっとキザな雰囲気も漂う二枚目、佐次郎(正太郎)。
伊三郎はひとり役人に捕まります。牙次郎と佐次郎は堅気となり三年後会おうと約束します。

二幕目、月日が流れ、舞台は料亭。
出てくるのは島から帰って来た伊三郎。
伊三郎はその料亭の花板(一番の板前)が佐次郎という名だと知り、呼んでもらう。
佐次郎、そう、あの佐次郎。
運よく店に拾われ、花板になり、店のお嬢さんと結婚の約束までしていると言う。
伊三郎は気に入らない。百両出せ。オレも堅気になりたい。
お前らの分まで島に行ってきたのだ。苦渋の末出す佐次郎。
これで終わると思うな。まだ出させてやるこれからも。お前から金が取れなくなったら次は牙次郎だ。
聞いて、佐次郎はハッとする。
それだけは勘弁してくれ。あいつは頑張ってるんだこの空の下。
あいつの笑顔を覚えているか。俺は「あいつの笑顔の為なら」何でもする。
そう、例えお前を殺しても―そうして、殺してしまう・・・

三幕目、殺してしまった佐次郎は「神様が粋なことしてくれた」お蔭で牙次郎に会う事が出来ます。
けれど、その時佐次郎は「一目お前に会いたくてその時まで生きよう」と罪を重ねて重ねて
人斬り凶次郎という名になっていて…一方、牙次郎は目明し…の下っ引きになっていて…

その日この芝居でワシがびっくりしたのは、
二幕目で佐次郎が「故意に」伊三郎を刺したことでした。
他の劇団のものではここまで「故意に」っての、ないんやないやろか。
ん、この劇団でもここまで「故意に」やっていたやろうか。
あきら佐次郎は言いました、
「お前を殺してでもあいつを守る」「兄貴よぉ。あいつの笑顔を覚えているか?!」(キザ!!笑)
正直、昼の部で観た時は違和感がありました。そんなに強い男なんやろうかって。
けれど夜の部を観たらすんなり受け入れられました。
ああ、それほどまでに牙次郎を想っているんだ。だから頑張れたんだ、花板になれたんだ。

そして故意で刺したからこそ、再会後、佐次郎は牙次郎のこの言葉で詰まったのだと思います。

「兄ぃはもう助からないの?!」

兄貴分を刺した後、「会いたいが為に」罪を重ね続けてしまった佐次郎。
三枚目でちょっと足りないが為にまっとうに生きるも
下っ引きの下っ引きくらいにしかなれなかった牙次郎は
でも兄貴にいい顔したくって親方(目明し)から十手を借りて捕り物に参加する。
そして何の因果か人斬りとなった兄ぃに十手を持って再会する。
その時牙次郎大介の口から出たのがこの台詞でした。

「兄ぃはもう助からないの?!」

紅あきらはこの台詞で「台詞が出なかった」と語っていました。
あの芝居の鬼が。泣きそうになって、思わず台詞が出なかったのだと。
嬉しそうに。本当に満足そうに、嬉しそうに。
それはね、故意で刺すほど強く弟分のことを想った佐次郎であり、
いろんなことがあって、ありながら、
悩み葛藤しながらも己の芝居道を貫き通して来た父紅あきら、
同じ人違う人その二人の気持ちなんやなかろうかとワシは思ったのです。
役者が役になり、役が役者に憑いた、だから、だからこその、幸せな瞬間やないやろうか。
そしてこの瞬間とは紅大介が葛藤や心の関係を距離を置いたからこそ
(口では言えないけれど)理解し、役者として
(無意識的に)「芝居」で返し、返せた、「牙次郎として返せた」瞬間なんやないやろうか。

と、そんなことを考えたのは芝居を観終わってからのことで
その日とその瞬間ワシは紅あきらも紅大介も座員さんも皆
佐次郎と牙次郎と物語の中の人にしか見えませんでした。
そしてBGMの『若者たち』はそんなスリの兄弟たちと役者たちを見守る、
まるで天の声、神様からのメッセージのように聞こえました。

《君の行く道は果てしなく遠い。だのになぜ歯をくいしばり君は行くのかそんなにしてまで》

実は紅あきらはその前の月から舞台で弱気なことを…
弱気だがプライドから皮肉めいたことを言いだしていました。
9月に息子が復帰してワクワクしながら芝居をしていた(だろう)、
けれどずっと関西が続いてちょっと疲れだした頃、
とある劇場主から「芝居へのこだわりよりも客を入れる事」と言われたのだと。
ただでさえ劇場が乱立し競争の激しい関西の地、
そこに興行の都合で(?!)5か月間もの劇場公演、
聞こえてくるのは派手さ華やかさを売りにした劇団の動員評判、
ん、その中にはこれまでなら考えられなかったような事で
お客さんを呼んでいる、呼べている、
それにお客さんが喜んで来ているという風潮もあるらしい。
ずっとやってきた方法論は通じなくなってきたのか、
これが時代とのズレなのか、今のお客さんは大衆演劇に何を求めているのだろうか―
本音からの、でも本音を隠して笑い話などでネタっぽく話す姿がよく見られました。

悔しかった、悔し過ぎてワシは何に当たったらいいかわからなかった。
怒りとなるせなさの矛先をどこに向けていいかわからず
劇団に対して「YES」やヨイショばかり言う追っかけや常連にすら腹が立ちました。
あんたらがこの人とこの劇団を生殺しにしてる原因になってるんちゃうの?!
なんて失礼すぎるヤツアタリを心の中で(あくまで心の中で。でも顔にも出てたよな。反省)していました。
そんな中でワシは決めていました、ずっと貫いていました。
嫌われても損しても理解してもらえなくてもバテても「ちゃんと」観て、ちゃんと伝える。
それがワシの観方、ワシのこの人たちとこの劇団への向き合い方、いや今の現代の大衆演劇への向き合い方。
で、勝手にひとり(ワシも)闘って勝手にバテたりしていました(今もね。笑)

そんなワシに、ううん、心の狭いワシに(だけ)じゃない、
きっといっぱい思うところはあるけれども言えなかったのであろう
ファンや追っかけさんや常連さんも含めた全てのお客さんに、
そして何より…紅あきらと紅大介と座員さんたちに、皆に、「神様は」プレゼントをくれたんやないやろうか。
この日の『上州土産百両首』という土産(プレゼント)を―

佐次郎が失った物はこの先の未来。
未来なんてどうなるんやろう。大衆演劇の未来はどうなるんやろう。
もしかしたらもう自暴自棄で斬っていたかもしれない、
けれどその笑顔を想い、思い出して、神様のお蔭で…出会えて…うん、きっと、絶対大丈夫だ。
牙次郎が佐次郎の分まで生きてくれる。
ちょっと頼りないように見えるかもしれないけれど、一番強いのは牙次郎。
牙次郎は未来に向かって笑顔でしっかりと歩く、歩いてゆく、歩いてゆける。
君の行く道は・・・きっと未来へと続く。続くんだ。
だから奇跡のような軌跡を毎日重ね続けてゆこう。
これまでを大事にしながら、これからへ。
日々舞台という人生を送る永遠の若者たち(役者たち)を神様は見ていてくれる。
これまでと、これからに続く、大衆演劇を見守っていてくれる。
君の行く道は・・未来へと必ず続く。続くんだ。そう、思います。


■omake■
この記事内容に際しても過去記事、少し。
これは「父と子」の上州土産百両首ですが、
これがこの父とその弟…なら…?!
3年前に観た「兄、紅あきら」と「弟、椿裕二」の『上州土産百両首』の記事、こんなんです。
『若者たち』ではなく『糸』だったんですよ。
【糸 -『上州土産百両首』@大衆演劇-】2015/03/05

■ご挨拶など■
【はじめに】から始まり【その@】とこの【そのA】、で、次の【そのB】でラストです。
Bはちょっと番外篇? いやいや、同じこの芝居を別の役とその役者から。
欠かせないポイント。たっぷりやって終わります。

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いい芝居とは〜My Dear, 大衆演劇、役者さんとお客さん〜【はじめに】
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